私は以前、台湾の不妊治療専門の医療機関で2年ほど働いていていたことがあります。
日本の医療機関との提携や日本から来たご夫婦のアテンド、カウンセリングや問診の際の通訳などの業務を担当していました。
日本では困難な卵子提供などの高度生殖医療も台湾では受けられます。
当時は年間2-300組の夫婦が日本から台湾に来て治療を受けていたかと思います。
実は台湾は深刻な少子化が進んでおり、同時に不妊治療に関しても世界の中で先進的な制度を取り入れている国です。
しかし、それでも2020年の統計では出生数が16万5,249人、死亡数が17万3,156人と死亡数が出生数を7,907人上回ってしまいました。
その結果を受けてか、台湾政府は2021年の7月1日から不妊治療の補助金受給条件を大幅に緩和。
これまでは世帯収入が一定金額以下でないと申請できなかったのですが、収入額にかかわらず申請が可能になりました。
台湾でも不妊治療の多くは健康保険の適用対象外の自由診療で、数万元から数十万元かかるケースも。
日本人夫婦とのカウンセリングで、不妊治療に関する情報収集は女性側がメインだったという話をよく耳にしました。
日本人女性と台湾人男性の夫婦の場合、台湾の補助金などを夫側が積極的に調べることは少ないかなと思い情報をまとめてみました。
元医療機関勤務の知識を活かして、台湾の不妊治療補助金の新制度について解説します。
記事の最後には、衛生福利部(日本の厚生労働省に相当)のサイトの関連ページ情報も掲載していますので、ぜひ最後までご覧ください!
台湾の不妊治療補助制度「體外受精(俗稱試管嬰兒)人工生殖技術補助方案」の内容
従来は
「低收入戶及中低收入戶之體外受精(俗稱試管嬰兒)補助方案」という名称だった補助制度。
2021年7月1日からは
「體外受精(俗稱試管嬰兒)人工生殖技術補助方案」と、収入に関する記述がなくなりました。
申請資格
世帯収入による制限がなくなり、現在の申請資格は以下のように定められています。
申請が可能なのは体外受精に関連した項目のみで、人工授精や他の診療行為は対象外です。
- 夫婦のどちらかが中華民国籍を有していること
- 妻の年齢が44歳以下であること
- 病院で不妊症と診断され、体外受精治療の対象とされていること
台湾の少子化対策を目的に予算が組まれているので、当然夫婦どちらかが中華民国籍を有している必要があります。
年齢制限については、一般的に45歳を過ぎての妊娠は母子ともに健康リスクが顕著に高いため設けられているのでしょう。
治療項目が限定されていのは、体外受精が排卵誘発や採卵手術、受精卵の培養、移植手術など諸々含めて10万〜20万元近くと高額になりがちなためでしょう。
申請可能数
補助金は複数回申請が可能です。
初回申請時の妻の年齢が
- 39歳以下:最大6回まで申請可能
- 40-44歳以下:最大3回まで申請可能
- 45歳以上:申請不可
病院での受給資格の確認が完了してから治療に入り、1年以内に治療の行程を完了する必要があります。
また、治療の完了(妊娠あるいは治療中止)から半年以内の申請が必要です。
受給金額
受給可能な金額は以下のように定められています。
一般家庭(初回) | 10万元 |
一般家庭(2回目以降) | 6万元 |
低収入及び中低収入家庭 | 15万元 |
上記は最大限に給付を受けた場合の金額です。
補助金は治療の各行程で発生した費用に対して、それぞれ給付されます。
ですので、治療の内容によって申請できる金額も異なってきます。
例えば、初回の採卵→受精卵の培養で移植可能な胚盤胞が多く育った場合、2回目の治療では1回目で残った胚盤胞の移植のみとするのが一般的です。
※多胎妊娠のリスクを避けるため、台湾の病院では移植する胚盤胞の数は1〜2個が推奨されています。
その場合、排卵誘発や採卵手術は不要となり費用もかかりませんので、その項目に対しては補助金の申請はできません。
台湾の不妊治療補助制度「體外受精(俗稱試管嬰兒)人工生殖技術補助方案」の申請方法
補助制度の申請の流れ。
- 夫婦双方の身分証明書原本とコピー(外国人の場合は居留証とパスポート)
- 医療機関による不妊症診断証明書
- 低収入、中低収入家庭証明書(一般家庭は提出不要)
夫婦二人で政府指定病院(次項で解説)に行き、声明書へのサインと押印。
そのまま病院を通して関連機関への確認が行われ、当日中に受給資格有無が判明。
治療を受けた病院にて、夫婦二人で補助金申請書へのサイン。
- 補助金振込先の口座情報
政府による審査通過後、郵送による通知と共に指定口座へ振り込み。
台湾の不妊治療補助制度「體外受精(俗稱試管嬰兒)人工生殖技術補助方案」の注意点
元台湾の不妊治療専門病院勤務者の観点から、今回の補助金制度の注意点をいくつか解説します。
申請可能病院
受給を受けられるのは、政府指定の病院のみです。
全ての病院での治療が対象ではないので注意してください。
政府指定病院については、以下の衛生福利部のサイトで確認をお願いします。
體外受精(俗稱試管嬰兒)人工生殖技術補助方案之特約人工生殖機構名單
第三者の生殖細胞の提供を伴う体外受精(卵子提供、精子提供)の場合の受給について
卵子提供や精子提供など、第三者の生殖細胞の提供を伴う治療でも申請が可能です。
補助金の申請は治療の各項目ごと。
例えば卵子提供を受ける場合、第三者から提供された卵子を用いるため採卵手術は行いません。
この場合、顕微受精や受精卵(胚盤胞)の培養、移植手術の費用などに対して補助金の申請が可能です。
申請ができないケース
不妊症と診断をされた夫婦の体外受精にかかる費用が補助の対象ですので、それ以外の以下のようなケースは基本的に申請ができません。
- 単身女性の将来に備えた卵子凍結保存
- 台湾で婚姻届が未受理の夫婦
- 同性婚カップルの不妊治療
独身女性の将来に備えた卵子凍結保存
女性側の不妊原因の大きな理由の一つが卵子の老化とされています。
女性が社会で活躍することも当たり前となっている現代、将来的な保険として若い内に自身の卵子を凍結保存しておいて結婚後の体外受精に使用することも可能です。
台湾では女優の林志玲(リン・チーリン)が実施して話題になりました。
この卵子の凍結保存は今回の受給の対象外となっています。
台湾で婚姻届が未受理の夫婦
今回の補助金の対象は、どちらか(あるいは双方)が中華民国籍を有している夫婦であることが条件です。
そのため、台湾で婚姻届を提出して夫婦関係が認められていることも受給条件の一つとなります。
日本では婚姻届を提出したけど、台湾では未提出という場合は対象外ですのでご注意ください。
同性婚カップルの不妊治療
台湾での同性婚は2019年5月に合法となりました。
ただ、民法上では合法となりましたが生殖医療の関連法案である人工生殖法においては、同性婚カップルの高度生殖医療について定められておらず治療自体が受けられない状態です。
まとめ
収入制限を撤廃し、全ての夫婦が受給可能になったのは本当に大きいですね。
死亡数が出生数を上回ったというのはそれだけ大きなインパクトだったのでしょう。
台湾で不妊治療を予定している方は、衛生福利部の関連ページを台湾人パートナーに見せるなどして、申請を検討してみてはいかがでしょうか。
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